Dr. Chloeのロサンゼルスに恋をして。第二章

歯科医師としてロサンゼルス滞在中。生活の中でポロリと出た独り言を呟きます。

歯医者が考える入れ歯作りから見た音声学

こんにちは!

 

今日は久し振りに歯医者さんネタ。

私の好きな言語学と生態学からみた音の作り方のお話です。

 

 

日本に帰国してからは、一般歯科の患者さんも見ています。

今回の患者さん。

新しく入れ歯を作ったが、英語の音が上手く言えないから困っている、日本語の発音は問題ない、という事。

患者さんは日本人だけど、よく英語を使うようです。

 

さて。

歯科医師としてこれをどう捉えるべきか。

 

あんまり馴染みのが無い人も多いとは思いますが、入れ歯ってこんな形。

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これ、上の入れ歯をひっくり返すと、

 

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こんな風にうわあごを全部覆うようになっている。

うわあごを全部覆ってしまうということは、発音に影響してくるんですね。

なので、入れ歯を作るときにはパラトグラムというものが存在します。上の入れ歯を作るときに使う、ここに舌が当たっていると、正確な発音が出来る、またはここに舌が当たらないからこの音が出せない、というもの。

 

日本語バージョン。

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そして、英語バージョン。わかりづらい写真しかなかったけど、舌の図のギザギザの部分は上の図の歯に当たる部分です。

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しっかり入れ歯の調整をする歯医者では、うわあごに粉をふりかけて、ひとつ一つの発音をした時にちゃんと舌が当たっているかを見る発音試験をします。発音した時にどの部位の粉が落ちてしまうか。

落ちた部分が舌が当たっている部分です。

いい具合に舌が当たるまで、発音試験を繰り返します。

 

音声学では音は、以下の器官、調音点によって作られるとされています。

  1. 唇(lips)
  2. 歯(teeth)
  3. 歯茎(alveolar ridge)
  4. 硬口蓋(hard palate)
  5. 軟口蓋(velum, soft palate)
  6. 口蓋垂(uvula)
  7. 咽頭(pharynx)
  8. 喉頭(larynx)
  9. 声門(glottis)
  10. 声帯(vocal cord)
  11. 鼻腔(nasal cavity)
  12. 口腔(oral cavity)
  13. 舌(tongue)

また、子音は、上記の調音点において呼気がどのように流れるか(あるいは、流れないか)により、分類されます。

 

だから、調音点において歯医者が扱う範囲はかなり広い。

上の8、9、10以外は扱うかな。

 

 

また、

言語によって、顔回りの筋肉の使い方が違います。

ちなみに入れ歯作りでは、筋肉の動かし方も記録します。

入れ歯の辺縁とその回りの形が、筋肉の動きにマッチしていないと、ある動きをしたいときに入れ歯が邪魔になってしまうから。邪魔になると、筋肉に押されて入れ歯が落ちてしまったりずれてしまったり。

 

しかし、これまた言語によって筋肉の使い方が違う。

日本語はどちらかというと口の周りの筋肉のみを使う、英語はそのもう少し後ろの筋肉まで使います。

無音声で人が話しているのを見ても、日本語かそうでないかって口の動きで分かりますよね。口の開け方、動かし方が違うから。

 

(実際、入れ歯作りのこの段階で記録する筋肉は発音時の筋肉ではなく、ものを吸ったり、口をもぐもぐ動かしたり、という日常生活における機能を記録するのですが、使用言語によって発達している筋肉が違うならば、差が出るかもしれませんね。出ない…かな。笑)

 

 

 

また、舌のホームの位置も日本語と英語では違う。

これまた無音声で人が話しているのを見ても、舌の見え方が日本語とは違うな、というポイントで日本語じゃない、って分かります。

(私が口元に集中しすぎているだけ?ちょっと職業病なのかしら。笑)

 

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よく、うまく言えない英単語があってアメリカ人の友達に教わるたびに、

「you have to open your throat more」

(もっと喉開けて)

って言われてたんですよね。

は?なんじゃそりゃ。

って思ってたけど、喉を開けろって、つまりは舌の根本を沈下させろってことだったんですね。

 

 

これまた入れ歯作りの話に戻ると…

舌の入れ歯を安定させるのに、舌の定位置はとても大事な要素。

舌の入れ歯はうまく舌が入れ歯に乗ることで安定するのです。

また、舌の位置を見ることで、人工歯の高さ、位置も決まります。

よって、使用言語でホームポジションが違うとこれも少し影響する可能性ありますね。

 

実際、アメリカの歯医者さんどうしてんのかなー、この辺。

日本では日本語にフォーカスしていれば作るけど、私はマルチリンガルなんです、なんてざらにある環境ではどんな対応をしてるのか気になります。

 

ちなみに、今私が話したような観点で入れ歯を作るのは、入れ歯をかなり専門にやってる人だけです。(私は日本での所属は入れ歯を作る科。口腔顔面痛は科がないの…。)

 なので、今度機会があれば入れ歯専門のアメリカの歯医者さんに実際のところどうしてるのか聞いて見たいな。

 

 

実際の患者さんはほとんどの場合、最初は少し発音しづらくても、時間とともにだんだん使いこなせるようになってくれちゃったりします。

ただ、たまに今回のように、日本語は問題ないけど英語のこの音が!

とかいう患者さんがいると、こんなことを考えてしまうのです。

 

でも、これって言語学としてちゃんと勉強してないとわからないよね。

バイリンガルの中でも、こういう生態学的違いを意識してる人ってどれだけいるかな。

きっとかなり少ない気がする。ネイティブ言語であればあるほど、音の作りなんて考えないでしょう。

私も入れ歯作りを学ぶまで日本語を話す時にどこに舌があたってるなんて考えたことなかった。

 

ハリウッドのアクセントリダクション(俳優になるためにハリウッドにやってきた人たちが、母国語のアクセントがある英語を話すと、出来る役が少なくなるからそれをなくすためのトレーニングをするためのクラスがあるんです。)のコースなんかではこういうことを教えるらしいです。

 

そうすると、日本にいる中国語話者の患者さんの入れ歯を作ることがちょくちょくあるので、私も中国語の音声学を学ばないとナイスな入れ歯は作れないかもしれないな、、、と思ってきた。

中国語の音声学は難しそう…。

  

 

ではでは、皆さん

Have a wonderful day!